「帰り道」(光村図書6年)の教材研究×3つの言語活動アイデア

公開日: 2021年5月16日日曜日 「帰り道」(光村図書6年) 教材研究

視点の転換が特徴的な作品

「あれ?入れかわってる??」

授業で初めて「帰り道」を範読すると,「2」の途中でこんなつぶやきが聞こえてきます。

令和2年度版の教科書(光村図書6年)に新たに収録された「帰り道」は,視点の転換が特徴的な作品です。

視点の転換といえば「ごんぎつね」が有名です。「ごんぎつね」は「1〜5」は「ごん」視点で描かれ,「6」で「兵十」視点に転換することで,悲劇性が高まる効果があったと思います。

一方「帰り道」は,「1」は「律」視点,「2」は「周也」視点となっています。

「ごんぎつね」では時系列で場面が展開されていたのに対して,「帰り道」では「1」「2」で全く同じ出来事が「律」「周也」のそれぞれの立場から描かれています。

「1」「2」ともに,それぞれの一人称視点で語られていくことから,心内語が多く,それぞれの人物が自分自身をどう思っているのか,相手に対してどう思っているのかが捉えやすく,人物像を想像する手がかりとなります。

また,「1」と「2」を重ねて読むことで,両者のすれ違いとともに,結末部での「心の通い合い」が浮かび上がってきます。

さらに,情景描写や「みぞおちの異物」「ピンポン球の逆襲」などの暗示的表現も多く,それらの表現を基に人物の心情や相互関係の変化を想像することができる作品といえます。

3つの言語活動アイデア

教科書の手引きでは,次の学習課題とリード文が示されています。

「視点のちがいに着目して読み,感想をまとめよう」

・登場人物の心情を想像しながら音読しよう。

・視点のちがいに着目し,登場人物の心情や人物像をとらえよう。

この学習課題とリード文では,「視点のちがい」に着目しながら,心情や人物像を捉えていくことが示されています。この方向性は,教材の特徴を生かしたものになっていると思います。

「感想を書く」という活動も,上記の観点で読んだことに基づいて考えをまとめていけば,指導事項を身につけることにつながるでしょう。

ただし,その「必然性」や「切実感」には,やや課題があると思います。

そこで,今回は「感想文」にかわる3つの言語活動アイデアを紹介します。

(今年度は6年生3クラスの授業を担当しているため,3つの異なる言語活動で実践してみました)

アイデア①「律と周也のトリセツ」をつくろう

アイデア②「卒業文集“あしたのことば”」をつくろう

アイデア③「律への手紙」「周也への手紙」を書こう


アイデア①「律と周也のトリセツ」をつくろう

Web上には,いくつかの質問に答えると「性格診断」や「あなたのトリセツ」などのように,自分の特徴やそれに基づくアドバイスをしてくれるサイトがたくさんあります。

それらを参考にした言語活動で,主に次の4つを考えていきます。

<①質問>性格診断をするための問いを考える
<②答え>律と周也がどう答えるか(人物になりきって考える)
<③あなたの特徴>
<④あなたのトリセツ>律と周也に対して,<特徴>をもとに,<自分の考え>を述べる


<この活動の良さと注意点>

◯  国語嫌いな子どもでも意欲的に!

実際のWebサイトで一度自分の性格診断をやってみることで,<人物像>についての学習が一気に身近なものになります。「第0次」として事前に体験させておくのもいいでしょう。

私のクラスでは,初読時に「二人は正反対のタイプ」「二人は似ているタイプ」という読みのずれが出たり,「律は〜すれば…」「周也も…」のように自分だったらこうするという考えが出てきました。

そうした発言をもとに「本当はどんなタイプなんだろう?」「二人にどんなアドバイスをする?」と投げかけた上でこの言語活動に出合わせたことで,子どもたちの<人物像を具体的に想像する>という指導事項に焦点化していくことができました。


◯  <人物像>に関する語彙力UPに効果的!

実際のWebサイトには,「○○なタイプ」「○○な人」など,様々な「人物像」を表す言葉が紹介されています。それらを活用すると,楽しみながら語彙を増やすことができます。私が子どもたちに紹介した【モチラボ】16タイプ性格診断というサイトでは,16のタイプと,さらにその一つ一つのタイプの特徴が挙げられています。

例えば「使命感に燃える仕切り屋」タイプであれば,
堅実倫理観が強く責任感もあり、どんなことにも誠実に対応するため周囲の信頼が厚いです。公正決断力もあるので、この人に任せておけば間違いは無いという存在」という説明が添えられています。

教科書の巻末ページの「言葉の宝箱」にも人物像を表す言葉は紹介されていますが,遊び感覚で語彙を広げていくことができるでしょう。

▲ 「〇〇タイプ」の選択のみはNG!

ただし,「〇〇タイプ」を選ぶだけになると,教材文から離れて「なんとなく」で判断しがちになります。

Web上の「〇〇タイプ」はあくまでも例として活用しながら,ぴったりの語彙を自分自身で探したり,組み合わせたりしていくことを意識づけることが大切です。


アイデア②「卒業文集“あしたのことば”」をつくろう



「帰り道」が収録された短編集「あしたのことば」(小峰書店)。
中でも「あの子がにがて」「富田さんへのメール」「風と雨」「あしたのことば」は,子どもたちと同年代の人物が描かれた物語です。


単元導入では,その中から「あしたのことば」の読み聞かせをしました。
この作品の中心人物「長沼裕」は,両親の離婚で転校し,何事にもやる気を感じられずにいましたが,ある日の放課後,クラスメイトの小林くんからかけられた言葉をきっかけに,明日への希望を見いだしていきます。
「帰り道」同様,“その後”が気になる結末です。

読み聞かせの後,感想を自由に話し合わせながら「この後裕はどうなったと思う?」「裕がこの時のことを振り返ったら,どう思うだろう?」「もしも裕が“卒業文集”を書くとしたら?」と投げかけ,次のモデル文を提示しました。
この原稿は,登場人物になりきって「①それぞれが思う自分自身 ②自分を変えた出来事 ③『ことば』に対する思い」の3段落構成で書いていきます。

「思いを伝える言葉」 ○○ 律

① ぼくは,自分の思ったことを言葉にすることが苦手です。優柔不断で,みんなの話のテンポについていけないことがよくあります。そんな時,ぼくだけ取り残されたみたいな気持ちになります。みんなみたいに自分の思っていることを言えたなら…ずっとそう思っていました。

②でも,ある日の出来事をきっかけに,ぼくは少しだけ変われた気がします。その日の昼休み,ある友達の何気ない一言が僕の胸に突き刺さり,僕はそのことを放課後になっても引きずっていました。そんな時,彼は帰り道に声をかけてきたんです。正直気まずくて,元々無口なぼくはますますしゃべれなくなってしまいました。でも,本当はぼくにも伝えたい思いがありました。本当は言えたらな…でもやっぱり言えないな…そんなモヤモヤした気持ちでいたら,突然,空からシャワーみたいな水が降ってきたんです。その天気雨で,なぜだかぼくらは大笑いし,気づいたらぼくのモヤモヤも消えていました。今思うと,モヤモヤの正体は彼の言葉ではなく,自分の思いを伝えられなかったことだったんです。今しかない。ぼくは勇気をふりしぼって,昼休みに言えなかった思いを言葉にしました。そして,その友達もこっくりとうなずいてくれて,初めて本当の自分の気持ちをきちんと伝えられた気がしました。

③今も,ぼくはそんなにおしゃべりなタイプではありません。でも,あの日の出来事で,ほんの少しだけ前に進めた気がします。自分の思いを,自分の言葉で伝えるということ。ぼくには簡単なことではないけれど,これからも「思いを伝えることば」を大切にしていきたいです。

その後,この短編集には教科書に掲載されている「帰り道」を共通教材にしながら,その他の作品から自分の読みたいものを選んで並行読書をしていく見通しをもたせました。

下の写真は,実際に子どもたちが書いた“卒業文集”の原稿です。

<律の卒業文集『素直に,正直に』> 


マーカーは,単元終了後,教師による評価の際に「黄色:律について 緑:周也について」の記述で分類しています。

<この活動の良さと注意点>

◯  モデル・共通学習・適用課題がひとつながりに!

短編集「あしたのことば」を活用することで,「①言語活動のモデル文,②「帰り道」での共通学習,③並行読書を生かした単元末の適用課題」をひとつながりの“単元”として構成することができます。

◯  人物の「ものの見方・考え方」まで目を向けられる

登場人物に“なりきる”タイプの言語活動としては,日記を書く活動が代表的です。

「出来事を振り返って文章に書く」という点では「日記」も「卒業文集の原稿」も同じですが,後者はよりその出来事の「自分にとっての意味」まで考えて書くようになります。

出来事が自分にとってどんな意味があるのか。それは,登場人物の「ものの見方や考え方」について考えていくこととも言えるでしょう。単なる「心情」だけでなく,人物の「ものの見方や考え方」に目を向けていくことで,その登場人物の<人物像>にまで迫っていくことにつなげられると思います。

成果物を分析すると,3つのアイデアの中で,最も深く登場人物の「考え方」にまで目を向けられていたと思います。

▲ 「書くこと」が苦手な子へ配慮⇨ペア・グループでの「プロジェクト」に

ただし,個人差は大きく「書くこと」に苦手意識のある子どもにとっては,アイデア①と比べるとハードルの高い活動になります。私は,一人で一つの原稿を書くようにしましたが,かなり個人差が出てしまいました。

次に実践するなら,4人グループで「律」担当ペアと「周也」担当ペアに分かれて原稿を書くようにしようと思います。

一人で書くとなるとかなり大変ですが,グループで取り組む「プロジェクト」にすると,つくる過程の中で自然と関わり合いが生じていくと考えるからです。

アイデア③「律への手紙」「周也への手紙」を書こう









アイデア②は“なりきる”タイプの言語活動でしたが,こちらは“第三者(読者)”目線で取り組む活動です。

単元導入では,5年生で読んだ物語とその言語活動を振り返りながら,“物語を楽しむ視点”として「心情の変化」「相互関係」「人物像」「物語の全体像」を学んできたことを確かめました。

その上で「帰り道」と出合わせ,上記の4つから自分が初読段階で楽しめそうな視点を選んで初発の感想を書かせました。

子どもたちは

・律と周也のすれ違い

・それぞれの視点から見た性格と読者目線で見た性格とのずれ

など,第三者(読者)視点だからこそ楽しめるところに目を向けていました。

その感想をもとに,「二人のそれぞれの気持ちがわかるみんなだからこそ,律や周也に伝えられることを考えて,二人に手紙を書いてみない?」と投げかけました。

例えば,次の「  」のような文面で手紙を書くと,【  】内の指導事項につながる活動になります。

「周也が一人で喋り続けている時,〜と思っていたんじゃない?でも,実は周也は…」
【① 二つの視点から捉えた心情】

「律ってさ,自分のこと,〜だと思っているでしょ。でも周也から見ると。それに,僕から見れば
【② 視点の違いに着目して捉えた人物像】

「あの時の気持ち,わかるな。私も実はこんなことがあって-。」「二人のやりとりを見ていて,私も,なんだかーについて深く考えさせられたんだ。」

【③ ①②を基にした考えの形成】


下の画像は,子どもたちが実際に書いた手紙です。三色のアンダーラインも,子ども自身が引いたもので,

黄色:律について 緑:周也について ピンク:自分の考え

で分類しています。


<この活動の良さと注意点>

◯  自然と「視点の違い」に着目しながら,問いが立てられる!

上の2つの手紙をみると,手紙を送る相手が律・周也と変わっても,どちらの視点からも読めていることがわかります。

これは,単元前半でまず一通目を書き,それを自己評価・相互評価してアンダーラインを引くようにしたことで,自分に足りないところを自覚できたからだと考えられます。

その中で「○○の時の律の心情は書けているけど,その時周也はどう思っていたんだろう?」「二人の人物像は書けているけど,自分の考えはまだ書けていないな。自分の経験と重なるところはあるだろうか?」などの問いを立て,二次ではその問いを解決しながら手紙を何度も書き直していきました。その過程を通して,上記の【①〜③】の力をつけていくことができると考えています。

◯ 「粘り強さ」と「学習の調整」を評価しやすい単元構成に

「評価しやすい」というのは,教師側だけでなく,子どもにとっても,ということです。

「学習評価ハンドブック」(文部科学省)では,主体的に学習に取り組む態度について,「粘り強さ」と「学習の調整」という二つの側面が示されました。ただ,この評価は,私自身とても頭を悩ませるところです。

そもそも,場面ごとの詳細な読みや,教師の発問に答えていくだけの学習展開では,そうした力は発揮されません。

それでは,子どもはどんなときに「粘り強さ」を発揮するのでしょうか。

私は,子どもが何かを「つくり,つくりかえていく」過程でこそ,そうした力が発揮されると考えています。

単元前半で一度手紙を書き,それを何度も書き直していく中で「粘り強さ」が発揮されるとともに,それをよりよいものにつくりかえていくために,どのように「学習の調整」するか,その中で一人一人にとって切実な「問い」が立ち上がってきます。

教師から提示された問いに答えるのではなく,一人一人が活動の中で見いだした問いとその解決,そしてそれがどう「手紙」でアウトプットされたかを見取っていくことで,「粘り強さ」と「学習の調整」という二側面を評価することができると思います。

▲  “活動主義”に陥る可能性も 

⇨「つくる→振り返る→問いを立てる→つくりかえる」の過程を大切に

「手紙を書く」ことのみに終始してしまうと“活動あって学びなし”と揶揄されるような授業になってしまします。

だからこそ,上述の通り「つくり,つくりかえていく」過程が重要です。

そして,その質を高めるためには,振り返りの充実が欠かせません。

単なる学習感想ではなく,自分たちの手紙を「黄・緑・ピンク」のアンダーラインで自己評価し,次の2つの視点で振り返らせていきます。

「①できたこと(身につける力)と,なぜできたか(解決策)」

「②できなかったこと(書けていない・納得できない)と次の見通し(問い)」

①をクラスで共有していくことで,それぞれの問いの解決過程を基に,解決策をモデル化していきます。

また,②の活動状況やそれぞれの問いを共有することで,似た困りごとをもっている子ども同士のかかわりを促したり,全体での話し合いの場を設定したりしていきます。

まとめ

3つの異なる言語活動で実践する中で,それぞれの長所と短所が見えてきました。

あとは,学級の実態と指導事項の重点をどこに置くかによって使い分けられるのではないかと思います。

ただし,どんな言語活動を設定したとしても,それが単元末の“おまけ”のようになっては,「粘り強さ」を発揮しながら,一人一人が「学習を調整」していくような学びは生まれません。

今回の単元で改めて感じた「つくる→振り返る→問いを立てる→つくりかえていく」というサイクルの重要性を踏まえ,次なる実践に繋げていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。


熊本大学教育学部附属小学校

国語科 溝上 剛道

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