第12回 熊大附小国語授業研究会「明後日の会」を開催しました。今回扱った教材は「海の命」!!

公開日: 2020年1月12日日曜日



令和元年が終わり,2週間前に令和2年が始まりました。



新しい年を迎え,新たな気持ちでいっぱいになられていることだと思います。



私も今年は,今まで以上に国語の研究を深めていきたいと思います。2月の研究発表会に向けて,もっともっと子どもに言葉の力を育むことのできる授業を生み出していきたいと考えています。今年もよろしくお願いいたします。



さて,1月10日に第12回熊大附属小国語授業研究会「明後日の会」を開催しました。



前回のブログでお伝えした通り,第11回から13回までは「熊大附属小研究発表会で授業する物語特集」になっております。



第11回・・・「モチモチの木」(中尾:12月13日)

第12回・・・「海の命」(溝上:1月10日)

第13回・・・「たぬきの糸車」(田邉:2月21日)



今回は光村図書版の教科書で考えるならば,小学校最後の物語教材です。



いわゆる小学校の物語の卒業単元となっています。



そのような価値ある「海の命」の教材研究をいかにすればいいのでしょうか。そのことについてじっくり考える1時間30分の研究会となりました。



最初の30分には,私の方で「楽しみながら書くことの力を付けるアイデア」をご紹介しました。



子どもたちにとって「文章を書く」という活動は,総じて好かれるものではありません。何なら苦手意識を持っている子どもの方が多いかもしれません。



そんな子どもたちの書くことの力を育んでいくためには,「楽しい」や「面白い」という情意面の高まりが必要になります。



ただ「書きなさい」と言っていても,子どもたちは楽しんで文章を書いてくれないのです。



では,どうしたらいいのか。

ある授業では「行事作文」を書かせます。運動会や音楽会,お別れ遠足や授業参観など,大きな行事があった時には,書くべき材料が子どもたちの頭の中にたくさん残っています。



子どもたちが「書けない」といった時には,「頭の中にはあるのだけれども,意識することができていない」状態であることが多々あります。だからこそ,行事という比較的インパクトが大きい出来事たちを並べて,ある程度まとまった文章を書かせていくのだと思います。



しかし,この行事作文には危険な面も含んでいます。行事があるたびに作文を書かせていると,子どもたちは嫌がるようになってしまいます。純粋に行事を楽しんでいたはずなのに,いつのまにか行事後にやってくる作文を煙たがるようになってしまいます。だからこそ,いつも書かせるわけにはいきません。



他にも,書く題材を面白いものにして,楽しみながら作文を書かせること(もしも,無人島に1つだけのアイテムを持っていくなら,何を持っていくのか 等)や,「『4年3組版のはらうた』をつくろう」などの文集づくりに取り組むことで,学級のみんなで制作物をつくるという学びの文脈にのせる等のアイデアがあるかと思います。



そこで今回,私が提案したものは「明日の日記を書こう」というものです。自分に起こったことを書くのではなく,明日自分に起こるであろう出来事を面白おかしく書いていくのです。



今回は,「私が沖縄に向かって旅に出る」という具体的な文章を,参加された先生方にお示しました。



モデル文の中には,自分の思いを適切に伝えることのできる語彙をたくさん入れ込んで作りました。



「今日,僕は旅に出た。だって,仕事が多過ぎるから。」という普通の表現の順序を逆にした表現。

「やれ・・・はたまた・・・しまいには・・・」という次の展開を想像しながら読むことのできる表現

「向かった先は沖縄県」という体言止め。

「口いっぱいにほおばりながら」といった行動描写。

「清水の舞台から飛び降りる」「英雄」「一人旅」などの語彙。          など

私が子どもたちに獲得させたいと考える語彙や表現をモデル文の中にたくさん取り入れていきました。



子どもたちはそんな「明日の日記を書く」という面白い活動に引っ張られながら,子どもたちは書き浸っていきます。今回ご参会いただいた先生方も,みんな黙って鉛筆だけを書き進める姿が生まれました。このような学びを生み出すことこそが,書くことの力を高めるためには必要なのだと考えます。



ご参会の先生方の中から,附属小の田邉「釣りに行きたい思い」や「それでも来週の授業の準備のために,子どもの顔を想起しながら学校で作業をする思い」などを表現した明日の日記を発表してくれました。





次に取り組んだのが,本日最大の山場である「海の命」の教材研究。本校溝上は,まず「作者研究」から始めました。



立松和平さんの職歴から,市役所職員をしながらの執筆活動を続けながら,地方在住の純文学者の地位を築いていかれた流れを説明してもらいました。



「いのちシリーズ」の挿絵についての話も面白かったです。光村図書では伊勢英子さんの挿絵をよく見かけていたのですが、シリーズの中には山中桃子さんの挿絵もあります。この山中桃子さんは立松和平さんの娘さんなのだそうです。親子で本を作っていたことや山中桃子さんは元々横松桃子さんと名乗られていたので、その名をもじって「立松和平」とした話など,なかなか個人で教材研究していては見つからない話でした。



また,「海の命」の原作的な役割を果たしている『海鳴星』の「一人の海」を取り上げ,実際に「一人の海」を複写した資料を持ってきてくれました。「一人の海」にはあって「海の命」にはない叙述として5点挙げていました。どれも「海の命」を読むならばほしい叙述ばかりでした。このような内容は,あくまで「海の命」に描かれた叙述のみで読み進めていくので,子どもたちに示すことはありません。しかし,教材研究の深さを出すためにも,授業者がもっておいてよい情報であると思います。このような綿密な教材研究があるからこそ,授業者にこだわりが生まれ,そのこだわりを授業化する時に,授業に対する教師の「情熱」が生まれてくるのであろうと考えています。



さらに,このような教師の教材解釈を通して得た情報を,全て子どもたちに伝えようとすると,子どもは満腹になってしまいます。教えたいことがたくさんあると教師は,自分がもった情報を1つも漏らさないように,何度も何度も繰り返し発問を行っていくような詳細な読解につながる授業になってしまいます。



教材研究をして得た情報(コンテンツ)を全て教えようとするのではなく,いかに子どもたちに学び取らせていくのかを考えることが,今求められるコンピテンシーベースの授業になるのだと考えています。そのための材料がたくさん見付けられる作者研究でした。



溝上先生は「海の命」を教材研究するために,物語の6つの場面それぞれの「設定」を読み取って行きました。また,各場面で溝上先生が考えなければならないと判断した6つの問いを示しました。



1の場面・・・「なぜ父は瀬の主に挑んだのか?」

2の場面・・・「与吉じいさの言う『海で生きる』とは?」

3の場面・・・「『村一番の漁師』とは?」

4の場面・・・「太一が背負ったものとは?」

5の場面・・・「太一はなぜ瀬の主を打たなかったのか?」

6の場面・・・「太一はなぜ誰にも話さなかったのか?」



この「海の命」は描写が少なく,飛躍が生まれやすい物語です。それは,長い物語を省略したり,描かれていた表現を削除したりすることで,教科書サイズにおさめるように工夫していたことから生まれる飛躍であると考えます。しかも,1の場面の問いである「父が瀬の主に挑んだ理由」は「父の有名になりたいという野心」からなのか,もしくは「父が生業の漁をする対象としてクエをとろうとした」からなのかによって,その後の子どもたちの読みは異なってきます。



きっと「おとうの野心」と読んでいる子どもは,与吉じいさをプラスの存在として読み進めるだろうし,クエを打とうとした理由を,おとうの仇と読んでいくでしょう。



逆に「生業としてクエをとろうとしたが,結果的にこときれてしまった」と読むのであれば,クエを打とうとした理由も変わってきます。そんな「分岐点」がこの物語にはたくさんあります。私が数えただけでも5~6つあります。そんな分岐点ごとに読みが変わっていくからこそ,この物語を読み解くことは難しいし,光村図書物語の卒業単元にふさわしい物語なのだろうと考えます。



溝上が研究会の中で紹介した通り,この物語を論理的に読み解こうとすることは難しいのです。だからこそ,この物語を読むことを通して,自己の考えを形成する力も育てられるし,物語の全体像を読む力も育てられるのだと思います。



研究会では,みんながこの「海の命」の世界に引き込まれながら読み深めることができていました。






次回は,本校の研究発表会が終わった2月21日(金)を計画しています。

今回の第12回には,たくさんの大学生が参加してくれました。



大学生のフレッシュな面々に,私たち附属小教諭もたくさんの元気をもらうことができています。



また,ご参会いただいた現職先生方には,お忙しい中にお越しいただけていることに感謝しております。



毎回思考を凝らして,たくさんの学びを持って帰っていただこうと考え,本校国語科3人で工夫しております。



大学生から初任の先生や,国語を専門に研究されている熟達された先生まで,本会はどなたでも参加できる会となっております。



次回の2月21日(金)に,場所は附属小学校会議室にて18:30から開始する予定です。



どうぞお気軽にお越しください。一緒に物語を読む目を高め合っていきましょう。



たくさんの先生方のご参加をお待ちしております。
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