対話を通して,解決策を共有する〜「単元 太一のモノローグ『海の命』(光村図書6年)」⑥−3〜

公開日: 2020年3月13日金曜日 「海の命」(光村図書6年)


前回のブログは,「次回は,各々のグループで異なる問いを解決していく学びの文脈の中で,「全体はどうするか?」について述べていきたいと思います。」という文で終わっていました。

早速,前回の続きからです。


⑶ 各グループでの話し合いの見取りと全体への投げかけ



本時のおいては,各班で言語活動をよりよくするための問いについて話し合ったり,その解決に取り組んだりしている様子を見取っていくと,班によって「村一番」と「一人前」の捉え方に違いがありました。

そこで,班内で意見が分かれていた4班を取り上げ,みずき君に発言を促しました。

すると,みずき君は「一人前の方がレベル的に高いじゃないですか」と発言します。

これを全体に「どっちが上?」と問い返すと,「一人前」「村一番」「いや比べられない」などのつぶやきが出てきました。

さらに次のように発言が続いていきます。


あおこ:技術的には村一番より一人前の方が上だけど,自然のことを考えるっていうの は,村一番の方が上だと思う。

T :ひなのさん(4班)が感じている違和感を言ってくれる?

ひなの:(前略)「追い求めているうちに不意に夢は実現する」って63行目に書いていて,「一人前にはなれない」って。でも不意にってことはいつの間にかってことだから,「海の命」とか,一人前としての覚悟がなれたんじゃないかなって思うんですけど,「村一番の漁師であり続けた」って91行目に書いてあるから,なれたかがわからない。

T :なれたかなれてないか分かんない。みんなどう?

C :なってないと思う。

C :えっどっち…

T :一人前になったの,なれてないの?なった。なれてない。ちょっとグループで話してみて。


⑷ 「一人前になれたのか?」についての対話から「解決策の共有」へ



以下は9班の「一人前になれたか,なれなかったか」についての話し合いです。

ともこ:えっなってない。(中略)海の命を知った太一は,そこから与吉じいさの海の命を守るっていう「千びきに一ぴき」の本当の伝えたかった意味を知って,「おとう,ここにおられたのですか」って言葉を使って殺さずに済んだ。

さりあ:ああ。

まさき:だから,この魚を「海の命」とたとえたことによって,この海を守らなきゃって。

ともこ:意志がついたってことでしょ。

まさき:で,一人前の漁師にならなくても済んだって。

ともこ:だから最後の「村一番の漁師であり続けた」っていうのは,最初は村一番の捉え方が,与吉じいさから見たら村一番の漁師だったけど,「村一番の漁師であり続けた」ってことは,その海の命を見て,その海を守るって意志がついたからこそ,ずうっと一人前の漁師にならずに,ずうっと村一番の漁師であり続けた…

し の:与吉じいさはさ,瀬の主にあったことあるのかな。

ともこ:多分あったことあるから,こんな…だからこの題名(冒頭のモノローグの言い間違い)は「海の命を知る人たちの…」

し の:やっぱこれいるよ。(構成メモの「冒頭のモノローグ」の記述を指差して)


ほぼどの班でも79行目「この魚をとらなければ」には着目していました。そこで,まずはその一文を根拠に「一人前にはなれていない」と読んでいるくららさんを取り上げ,それに対する考えをつなげて発言させていきました。




くらら:私たちの班(7班)ではなれてないでまとまっているんですけど,79行目に「この魚をとらなければ本当の一人前の漁師にはなれないのだと」って書いてあるじゃないですか。(中略)だから,本当の一人前の漁師じゃないって思うんですけど。

ゆうと:多分太一と村の人たちとかの「一人前」って言うところの視点?価値観が全くの別物だと思うんですよ。太一の場合は一人前というのは,多分父を超えたい。だから父を破ったクエを殺したら,父を超えたっていう証拠になるんだけど,この人たちは別にクエを殺さなくても一人前の漁師っっていう価値観を持っていると思うので,価値観が全く別物なんだっていう…

り の:村の人たちの,与吉じいさとかの価値観,どこが一人前なのかっていう。太一が心の中で言っている一人前になれなかったのであって,普通の他の人たちの視点では一人前っていうのは,もう達していると思う。
ともこ:私たちは,なれてなかったっていう考えなんですけど,ゆうとくんとりのさんは一人前の捉え方の違いを言っていたじゃないですか。私たちは村一番の漁師と一人前の漁師の違い。この文章って,一人前の漁師って言っているのは太一だけなんですよ。で,村一番の漁師と言っているのが与吉じいさなんです。「千びきに一ぴき」ってこの前話し合ったじゃないですか。私たちは二つの意味があると考えたんです。一つ目は「海の命を守る」。与吉じいさはそれを伝えたかったと思うんです。「千びきに一ぴきでいいんだ」っていう言葉には,村一番の漁師,海の命を守れるっていう人物を表す,それを与吉じいさは伝えたかったと思うんです。私たちは村一番の漁師=海の命を守る人。それを与吉じいさは伝えたかったと思うんです。しかし,太一はこれを,私たちがこの前話した通り,瀬の主をとって一人前の漁師になるって捉えたんですよ。だから,一人前の漁師って言葉は瀬の主をとるってことだと思うんですよ。で,この違いがあるからこそ,この前議論した理由としては,矛盾が生まれてるじゃないですか。考え方が違うんですよ。それは与吉じいさと太一の捉え方の差なんですよ。太一はこの時はまだ一人前の漁師,瀬の主をとるっていう考えだったんですけど,山場で瀬の主と会って,会ったからこそ,与吉じいさの村一番の漁師っていう本当の意味がわかったから,多分とらなかったと思うんですよ。

T :だけど,ともこさんはなれていないっていう考えだったかな。今のところはオッケー?じいさの言葉の本当の意味がここでわかったんだけれども,一人前にはなれなかった。ということはさ,物語の全体像を捉えて「これは〜な物語だ」っていうところでいくと,「村一番の漁師ではあり続けたけど,本当の一人前の漁師にはなれなかった話」ってことになっちゃうよね。そういう話?

ゆうみ:私もその…なんで父を超えたいって…太一は父を超えたいとなんか思っていないと思うんですよ。父を超えたいっていうか,父を目指していたんですよ。小さい頃から。だから,父を目指していた。でも,父がどれくらいすごいかってわかっていなくて,でもこの大きい…大魚に会って,大魚の迫力が父と似ていた…父はこれくらいすごかったんだ,僕もこれくらいなりたい。やっと並べた。

C :並べた?

ゆうみ:並べたっていうか,やっとここまでこれた。やっとわかったという状況だと思うんですよ。だから,一人前にならなかったっていうのも,大魚を殺さなかった理由は,父だと思えたそれくらいのすごさだから。それがつながってくるんじゃないかな。

さとし:僕たち一班では,父を超えたいっていう目標がないんじゃないかという意見なんですけど,これは太一自身の達成感のためにやってることじゃないかと考えていて,71行目「これが自分の追い求めてきた」っていうのは,自分が頑張ってきたっていうこれは太一自身の価値観じゃないですか。自分が追い求めていたものが海に現れた喜びっていうのが表れていると思うんですよ。一人前と村一番の違いっていうのを,村一番っていうのをおとうのこと,与吉じいさも村一番って文章に出ているじゃないですか。でも一人前っていうのは誰かから認められるものじゃなくて,だから一人前じゃなくて本当の一人前,自分自身が認めている漁師になれなかったっていうのを表しているんじゃないかと思いました。


本単元で子どもに身につけさせたい力は,自分の読み取った相互関係や心情の変化,人物像について,「物語の全体像」に立ち返って考えられるようにすることでした。

そのために意図した本時の「教師の出」は2つです。

1つ目は「村一番」と「一人前」についての捉え方の違いを取り上げ,全体に問い返すこと。

これにより,その言葉を誰の視点から見るかによって意味が変わってくることを共有することをねらっていました。

2つ目は,言語活動の「冒頭のモノローグ」に立ち返らせること。

ともこさんの発言に対して,「ということはさ,物語の全体像を捉えて「これは〜な物語だ」っていうところでいくと…」がそれにあたります。

この2つの手立てによって,「価値観が全く別物」「太一の場合は…」「普通の人たちの視点では…」などの言葉を子どもから引き出し,さらに「父を超えたいとなんか思っていない」「やっとわかった」,「だから一人前じゃなくて本当の一人前,自分自身が認めている漁師になれなかった」など,太一自身の価値観の変化についての考えが出てきました。


⑸ 言語活動の再考と本時の振り返り
この後,再度グループで話し合う時間を取り,問いの解決の続きや言語活動の再考に取り組ませました。

本時の振り返りでは,次のような発言が出ました。

じんと:話し合いがヒートアップしすぎて頭がついていかないくらいだったんですけど,でも今まで考えていた問いが答えとして出てきたのでよかったです。問いが,「一人前の漁師になるためには?」だったんですけど,クエを殺すことが一人前の漁師になることじゃなくて,千びきに一ぴきとればいいという答えが出ました。

まさき:僕は,最初は,村一番の漁師と一人前の漁師は一緒と考えていたんですけど,でもみんなの意見とか文を読んでいるうちに,「海の命」という見方が入って,最後は,一人前の漁師は誰よりも凄腕でどんな魚でもなんでもしてしまう,でも村一番の漁師っていうのは,海で生きていけて,海の命を守る漁師っていう,太一が「村一番であり続けた」っていうのがやっとわかってきたと思います。

じんとくんもまさきくんも,対話を通して言葉に対する見方が広がり,自分の問いの解決につながったことを振り返っていました。



今回は一気に本時の終末までご紹介したので,すっかり長文になってしまいました。

最後までお読みいただきありがとうございます。


国語科 溝上 剛道
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