3つの教材研究② 〜「大造じいさんとガン」はどのように教材化されてきたか〜

公開日: 2024年1月29日月曜日 「大造じいさんとガン」(光村図書/東京書籍5年) 教材研究

研究発表会に向けて、第2回は単元構想「3つの教材研究」その2です。
その1では、「素材研究」「学習者研究」について述べました。
(その1はこちらから)

今回はそれを受けた「指導法研究」です!

「大造じいさんとガン」は、どのように教材化されてきたか


1 教科書における取り扱い


「大造じいさんとガン」は、令和2・6年度版の新旧教科書において、次のような単元名・学習のポイント(「たいせつ」「言葉の力」等)・言語活動で扱われています。

教科書

単元名

学習のポイント

言語活動

光村図書

すぐれた表現に着目して読み、物語のみりょくをまとめよう

すぐれた表現に着目する

朗読で表現する

・物語の魅力についてまとめる

登場人物の心情の変化に着目して読み、物語のみりょくを伝え合おう

多様な観点から読み、みりょくを伝え合う

・物語の魅力がよく表れている場面や文を選び、朗読で表現する。

東京書籍

朗読で表現しよう

人物像を想像する

朗読で表現する

人物像について考えたことを伝え合おう

人物像をとらえる

考えたことを伝え合

教育出版

物語の全体像をとらえ、

やま場の場面を見つけて読もう

「やま場」

考える

・考えをノートにまとめ、友達と交流する

物語のやま場を見つけ、読みを深めよう

「やま場」

考える

・「やま場」を見つけ、心に残った場面とその理由を交流する。

文章における精査・解釈の指導事項「エ 人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること」に重点を置いた単元構成となっています。

また、学習のポイント(教科書における「たいせつ」や「言葉の力」等)に着目すると、各社が精査・解釈の指導事項の中でもさらに重きを置いている部分が見えてきます。

さらに、それに合わせて、各社で異なる言語活動が設定されており、例えば光村図書と東京書籍で設定されている「朗読」は、どう読むかを考えることで優れた表現に着目させる意図をもった言語活動だと考えられます。
ただ、音声表現のため評価(自己評価・相互評価を含めて)が難しいという課題もあります。また、教育出版のような考えたことの交流では、目的意識はもちづらいと考えられます。

2 先行実践


文学の授業づくりハンドブック第3」では、以下の先行実践が取り上げられています。

 

言語活動

学習のポイント

上西実践

・表現の特徴を踏まえて話し合う

・視点 ・表現の特徴 ・人物像、世界像

山田実践

・大造日記を書く・椋鳩十ガイドを作る

・心情 ・情景

河野実践

・既習教材と比べて読む

・物語の展開、構成 ・情景描写、心情表現

その上で、上記3実践から以下のような示唆が得られることが述べられています。

本作品は、現在に至るまで長らく教科書教材として用いられ、その結果、多くの実践事例を生み出してきた。とくに1990年代以降は、テクストに関する研究が進んだこともあり、安易に主題に迫るのではなく、本文の表現や構造に沿った読みを子どもに求める実践も増えてきた。上西実践はそのような意図を強く有している実践の一つといえよう。

しかし、本文の表現を一つ一つ取り上げて読み味わう作業は、読み取るべき内容を盛り込みすぎて教師側の自己満足に陥ってしまったり、子どもたちが読みの目的を見失い授業に対して受身になってしまったりする危険性を秘めている。文学作品を読むことを通して子どもの豊かな読みを引き出し、学力の向上を図るためには、より主体的に作品に向かわせるような「仕掛け」を授業者が仕組むことも必要であろう。山田実践では、「日記の執筆」と「ガイドづくり」と言う二つの言語活動を中心に据えることによって、子供が主体的に読みを行うような工夫がなされている。(中略)

重要なことは、子どもたちが<日記>や<あらすじ>の作成という活動を通じて、それぞれの文章を支えている「語り手」の位相を体感していることにあるのではないか。本作品が有する「語り」の構造が極めて複雑であることは、先行研究においても指摘されている通りであるが、そのことを説明によって理解させることは困難である。効果的な活動を仕組むことは、言語活動そのものの能力を高めるだけでなく、作品の読みを深める可能性を有していることを示唆しているといえよう。


小笠原氏は、「本文の表現や構造に沿った読み」の大切さを指摘する一方で、それが読みの目的を見失い授業に対して受身になってしまったりする危険性を孕むことへの警鐘を鳴らしている。その上で、そのような課題を乗り越える手立てとして、主体的に作品に向かわせるような『仕掛け』として、特に山田実践における〈日記〉〈あらすじ〉が「仕掛け」として有効であったと述べています。

日記という活動は、人物になりきることで同化する読みを経験しつつ、本作品の「語り」の構造への着目を促す点で有効な仕掛けだと言えるでしょう。
一方で、単元計画が14時間で組まれているように、それぞれの場面、それぞれの日ごとの日記を書いていくにはかなりの時間を要します。

現行の学習指導要領下では、その半分程度の時数で単元が組まれることが多いと思います。
このことから、少ない配当時間の中でも目的意識を明確にし、「語り」の構造に着目しながら読み深めていける活動デザインが求められると言えるでしょう。

そこで、次の3点をポイントとして、本単元を構想しました。

本実践の主張

○ 物語の「前書き」で炉端を囲む「大造じいさん」と「わたし(語り手)」、読者としての自分たちで語り合う『ろばたの座談会』を中心に単元を構成する。

○  作品中のさまざまな「対比構造」に着目した問いを取り上げる。

○「振り返り一歩前」の手立てとして、「自分の解釈」からか表現するか、大造目線から「返答」をつくるかを選ぶようにする。


次回のブログでは、この3点について、詳しくお伝えします!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

国語科 溝上 剛道
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