〜思考の「立ち止まり」をつくる〜「単元 太一のモノローグ『海の命』(光村図書6年)」③
公開日: 2020年2月5日水曜日 「海の命」(光村図書6年)
「今なんて言った?」
第3時で目指したのは,子ども自らが自他の言葉に立ち止まれるようにすることです。
グループでの話し合いが活発になっても,授業後振り返りを読んでみると,「さっきあんないいこと言ってたのに…」
そんなことはないでしょうか?
そこで,第3時では「心情」「人物像」などの教科内容に加えて,教科を越えた学習の力として「立ち止まり」をテーマに授業に臨みました。
『太一のモノローグ』を創る上で鍵となる言葉を探しながら問いの解決に取り組む活動を通して,複数の叙述を関連付けたり,言葉の意味を問い直したりしながら心情や人物像を捉えることができる。
<第3時の主な学習活動>
1 前時の振り返りをもとに作品の特徴を確かめ,どうすれば『モノローグ』を創ることができるかについて話し合う。
2 ペアやグループでキーワードを見つけながら「わたしの問い」を修正し,その解決に取り組む。
3 本時で解決したことを振り返り,次時の見通しをもつ。
第2時,ペアやグループで問いの解決に取り組んでいく中で,こんな声が多く聞かれました。
・情報が少なくない?
・これだけじゃわかんないよ…。
問いを解決しようと,これまでの物語の学びを生かして根拠となる叙述を探していった子どもたち。
しかし,登場人物一人一人についての描写は,それほど多くはありません。むしろ,少なすぎるくらいです。
第3時では,はじめにそのような困り感をもっていた子どもを取り上げ,
全体でこの「海の命」という物語の特徴を確かめていきました。
はると:自分が担当しているところもそうなんですけど,人物があまり喋らないから,あんまり気持ちがわからない。
T :会話文確かに少ないですね。だから,気持ちが読み取りづらい。しょうた君も昨日似たようなことを言っていたよね。どんなこと?
しょうた:2,3場面のところの与吉じいさの人柄を考えるときに,釣りの様子とかは書いてあるんだけど,全くなんか,会話とか与吉じいさの様子とかが少ないから,読み取ろうにも…
T :会話文だけじゃなくて,様子,描写も少ないってことですね。しょうた君は人柄,人物像を読み取ろうとしたけど,人物像についても読み取りづらいなって感じたわけですね。これ,この「海の命」の特徴的なところです。6年生最後の物語にしては,そんなに長い文章じゃないですよね。
C :うん。短い。
T :でも出てくる人物はたくさんですよね。だからこそ,この少ない中で鍵になる言葉があるはずですよね。じゃあ,自分がこれ鍵になるんじゃないかって着目した言葉はどれ?自分が担当しているところで確かめてみましょう。
(1班の話し合いの様子)
ゆ み:私は二つあるんだけど,与吉じいさの。
ななこ:「村一番」ってところ。
ゆ み:それと「千びきに一ぴき」ってとこも気になっている。
ななこ:頑固でも根がほぐれている。
ひさし:言い換えたら…
ゆ み:「厳しいけれど,根は優しい」だ。
このように,各班で着目しているキーワードを話し合った後,全体でいくつか共有していきました。(板書参照)
その上で,再度グループでの活動に戻し,問いの解決と『太一のモノローグ』づくりに取り組ませていきました。その中で,教師は各班の様子を観察しながら話し合ったことをどれだけノートに書き留めているかを見取っていきました。第2時後に一人一人のノートの記述を評価していった時,話し合いってはいるけれども,それが話したまま流れていき,自分がどの言葉に着目し,どう考えたかを自覚できていない子どもも見られたからです。わたしは,次の3点を意識して子どもたちに関わっていきました。
○ 各グループの話し合いの中で,いい気づきが出ているところを見取る。
○ 「今いいこと言っていたよね。なんて言った?」と問い返す。
○ 「そういう言葉を書き留めておこう」と助言する。
グループで言語活動『太一のモノローグ』を創り上げるために,一人一人が「わたしの問い」を立て,その解決に取り組んでいく。この単元構成では,必然的にペアやグループでの活動が多くなります。その中で,全ての気づき,全てのつぶやきに対して教師が問い返すことはできません。だからこそ第3時では,子どもたちがより主体的に言葉に立ち止まれるようにするために,上記の3つを意識して活動を支援していきました。
すると,その後の子ども同士での話し合いでも,赤線部のゆみさんように,「なんて言ったっけ?」と自分の考えに立ち止まろうとする姿が生まれていきました。さらに,ゆみさんが立ち止まりが,ななこさんの「海の命」という題名と関連付けた考えへとつながっていきました。
さとし:みんなちょっといい?ひさしがさ,おとうを「ねばり強く最後までやりきる人」って考えを持っているんだけど,なんかさ,文章そのまんまじゃん。なんかいい言葉ないかな。例えば,海に捧げた…
ななこ:最後まで海に命を捧げた男。
さとし:うん。ただ最後までやりきるじゃなくって,それを言語化…
T :今,人物像についていろいろ意見出ていたよね。それをノートに書いていってごらん。
ななこ:なんていった?
T :ほら,結構話しているようで,流れていってるでしょ。「それいいこと言っている」って言い合って書き留めておこう。
ゆ み:あきらめない。
さとし:最後までっていうのは,見つかった時,死んじゃった時でしょ。
ゆ み:確かに。もしかしたら私が思うのは,こっちの方だと思うんだ。
さとし:粘り強くってさ…
ゆ み:もしかしたらおとうはこっちじゃなくってこっちの可能性もあるんじゃない?
さとし:こっちは最後まで魚をとる。おとうはどっちも二つ…
ななこ:ある意味おとうは…
さとし:だっておとうのおかげで太一は漁師になったんでしょ。
ゆ み:私なんて言ったっけ?
ななこ:海に命を捧げた。海に命を捧げたって,それって「海の命」につながる。
さとし:ああ!!
ななこ:だから,この産んで,与吉じいさは「海に帰りました」って。
ゆ み:なるほどね!
四 人:いえ〜い!書き留めたいけどなんて言ったっけ?
ゆ み:あ,思い出した!まず,「海の命」っていうのは,海の命を捧げること。だから,「さいご」って二つの意味のうちの,死ぬ方の「最期」?(全員がノートに書き始める)
さとし:いやどっちもあってるよ。これが「最後」でもあり,「最期」でもある。二つの意味が込められている。
ひさし:さいごまでか。
ゆ み:海の命ってのは…
ななこ:あ,「海に帰りましたか」って言うのが…
ゆ み:捧げたよってこと。
次の写真は,第2時で最も記述量の少なかった2人のノートを,第3時のノートと比較したものです。第3時の導入で,「自分の問いを解決するためのキーワードを探すこと」を意識づけ,さらにグループ活動では,各グループに上記の3つの関わりをしていったことで,まず単純にノートの記述量が大幅に伸びました。それによって,一人一人の子どもが「自分が文章中のどの言葉に着目しているか」「自分がどんな考えをもったか」「友達のどの発言に立ち止まったか」に自覚的になり<国語の記録(振り返り)>の記述もより具体的になっていきました。
たいしくんは,第2時には問いと振り返りのみの記述でした。振り返りの内容も「おとうの問いを立て,〜と言う行動の理由を考えた」のように「今日取り組んだこと」だけに留まっています。それに対して第3時では,話し合ったことを書き留めていくことで,「『○○ってことは,△△だよね』のようなことを繰り返していき…」のように,その学び方について振り返ることができていました。
ひろし君は,自分の考えをもつのに時間を要するお子さんです。2学期までの学習の積み重ねで,問いを立てたり振り返りを書いたりすることは,教師の関わりがあればできるようになってきていました。ただ,第2時の振り返りにも書いているように,自力でその問いを解決することは,まだ難しいところがあります。しかし,第3時のノートでは,自分の問いを解決するためのキーワードを3つ取り出しています。振り返りでも「問いを解決するためにキーワードをさがした」と書いているように,その解決策を自覚していることを見取ることができました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は第4時。
子どもたちがさらに問いの解決に没頭していきます。
ご期待ください!
国語科 溝上 剛道
先生主導の授業だと通り一遍の理解で尚且つ、理解度にばらつきがあっても生徒にも先生にもそれが顕在化しない。皆の発言で初めて、あ そうかと気が付く、そういうことかと!そこで考える力が倍増されると同時に自分の考え方を修正しながらも確固たるものにできる。先生のアドバイスも素晴らしいですね。教えるから学ばせる!尚且つ理解の遅い子も皆の輪の中に引き込んで、理解のばらつきを中心に狭めてゆく姿が見えます。素晴らしいものを拝見させていただきました。小学生からこのような授業を受けられる生徒が羨ましいですね。生意気なことを言ってしまい恐縮です。
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