〜問いの発展・更新〜「単元 太一のモノローグ『海の命』(光村図書6年)」④
公開日: 2020年2月6日木曜日 「海の命」(光村図書6年)
第4時の目標 クエの設定や母,太一の心情について話し合うことを通して,中心人物の視点から読むことを理解し,自分の考えを見直したり,次の活動への見通しをもったりすることができる。
<第4時の主な学習活動>
1「1場面と5場面のクエは同じか違うか」について話し合い,瀬の主についての描写を読み取る。
2 グループごとに,前時までの学習を振り返り,問いの解決で納得できないところを話し合う。
3 グループで解決できないところ,納得できないところを共有し,全体で話し合う。
4 本時の学習を振り返る。
第3時の終末,振り返りをしている際に「今なんか困っていることある人?」と問いかけると,ゆうと君がこんな疑問を出しました。
「1場面と5場面で,同じクエなのか,違うクエなのかで迷っている。」
「みんなはどう思う?」と全体に投げかけると,意見は真っ二つに。
「だって,目の色が違うじゃん。」
「いや,でも見方が変わっただけじゃない?」
そこで,第4時では,その疑問について話し合うところからスタートしました。
直接的に『太一のモノローグ』につながる問いではありませんが,このまま各グループでの話し合いにいくと,「同じか違うか?」に終始してしまうと考えたからです。
「同じか違うか」を決定づける叙述はありません。
しかし,ここで重要なのは,「太一が瀬の主をどう見ているか」という視点で読むことです。
全体で話し合いながら,「太一は,同じと見ている。」「『これが自分の追い求めてきたまぼろしの魚、村一番のもぐり漁師だった父を破った瀬の主なのかもしれない。』のところからそれが分かる」という考えを取り上げ,「太一が瀬の主をどう見ているか」という視点を共有していきました。(学習活動1)
その後,グループごとに前時までの問いの解決状況を振り返り,ゆうと君のように全体に問題提起したいところはないかを話し合いました。すると,4班から次の問いが出されました。
「母の言葉の「おまえの心の中が見えるようで」の心の中とは何か?」
この投げかけに対して,「太一と母」の部分のモノローグを考えていたさりあさんとともこさんが,次のように言葉をつないでいきます。その中で出されたともこさんの「母は,太一がかたきうちをしようと思い込んでいる」という発言に立ち止まり,「太一はかたきをうとうと思っているのか」について話し合うように促しました。
(全体での話し合い)
さりあ:母は,おとうが死んだ瀬に思いをはせていて,家族思いな人だと思うんですけど…それで太一もおとうと同じようにおとうのかたきうち見ないな感じで思ってしまっていた,心配していたと思う。
ともこ:さりあちゃんが言っているのは,「おまえがおとうの死んだ瀬にもぐると」ってところ…
母親は太一が父のかたきをとろうとしていると思い込んでいる…
T :今ともこさんは「かたきうちをしようと思い込んでいる,『思い込んでいる』」って言ったね。どうなんだろう。これ思い込みなんだろうか?それとも太一はかたきをうとうと思っているんだろうか。ちょっとグループで話し合てみて。(→各グループでの話し合い)
<1班の話し合いの様子>
さとし:してるでしょ。だって「とうとう父の海にやってきたのだ」だよ。
ななこ:でもさ…そこでさ…
さとし:だって,思い込んでいるではないでしょ。思っているでしょ。だって父の海にやってきたのだって…
ななこ:思ってないかもしれないじゃん。
さとし:なんで?
ゆ み:太一は重いクエしか興味がなかったってこと?だってさ,20キロくらいのクエには興味を持てなかったんでしょ。
ななこ:あんま思ってはないんだよ。深くは思っていないんだよ。
ゆ み:じゃなくて,おとうを殺したクエを探しているの?
さとし:殺さないならこんなに長く書く必要なくない?
ひさし:わざわざそんなに長く書かないよ。
さとし:そんな詳しく「青い宝石の目」とか。
ひさし:そうそう。
ななこ:そこからどうして?殺さなかったでしょ?
さとし:例えば,
ななこ:ああ,そっちの話から変わって…かたきうちをしようとは思っていなかった。
さとし:「こんな感情になったのは初めてだ」って。(※話し合いは続く)
「太一はかたきをうとうとしているのか」について話し合うことを通して,1班では「とうとう父の海にやってきたのだ」「20キロぐらいのクエも見かけた。だが…」「青い宝石の目」「こんな感情になったのは初めてだ」などの叙述を関連付けて考える姿が見られました。
他班でも,さまざまな叙述に着目し始め,考えが広がってきていたので,各グループで話し合ったことを整理するよう促しました。
T :今,グループの中でこんな話が出たんだけど,ここが分からない,ここがまとまらないところを整理してみましょう。
(2分ほどグループで確認する時間をとる)
T :今,グループで話し合って新たな問いが出てきた班は?
ゆ み:太一にとってのかたきうちとは何か?(1班)
はなこ:私は,太一がクエに仇を取ろうとしていると考えているんですけど,この物語は最後まで仇をとっている場面が描かれていないので,ゆみさんと同じで「太一にとってのかたき」って何だろう。(5班)
ゆうと:36と79と91行目のところなんですけど,「太一は村一番の漁師であり続けた。」というのが矛盾しまくっていると思って,最初は与吉じいさに「おまえは村一番の漁師だ」って言われて,それに納得していない,殺さないと自分で納得いかないって思っていたのに,殺してもいないのに「もりを打たない」って書いてあるのに,「村一番」って書いてあるのは,どっかで何かあっているんじゃないか…(3班)
T :どっかでなんか。ここからここまでの間でね。今3人から問題提起がありました。今日は今のところでの自分の考えを書いてみましょう。自分の問いの解決ではなかったけれど,新しく分かったことや,新たな問いができたところがあったと思います。それを振り返りで書いてみましょう。
この日の<国語の記録(振り返り)>には,多くの子どもが新たに問いを発展・更新することができていました。
それは,各班からの問題提起をきっかけとして,全体とグループを行き来しながら「1場面と5場面のクエは同じか違うか」「母の言葉の『おまえの心の中が見えるようで』の心の中とは何か?」「太一はかたきをうとうと思っているのか?」について話し合わせていったことが大きかったと思います。
本単元で子どもたちが創ろうとしている『太一のモノローグ』は,太一自身がこの物語をどう語るかです。太一の視点に寄り添って書かれている物語だからこそ,この2点を押さえて読んでいく必要があります。第4時ではその考え方を共有したことで,次のように問いを発展・更新している姿が見られました。
・太一にとっての「かたきうち」とは?
・「一人前の漁師」になるためには?
・「一人前の漁師」とは?
・L79「本当の〜なれないのだと」とあり,クエをとっていないのに,L91「太一は村一番であり続けた」から,むじゅん。とっていないのに,村一番の漁師なんておかしくないか?
・クエを倒さなかったのは,太一のどのような気持ちからどんな出来事があってどんな気持ちになったからなのか?
・追い求めている「夢」とは,父のかたきをうつことなのか,村一番の漁師になることなのか,父に会うことなのか,その他にあるのか?
・なぜ太一はL72でおとうを破ったやつかもしれないと思っているのに,そのクエをかたきだと思って倒さなかったのか?
・太一はクエに対してかたきをとろうと思っているのか?
・太一は何を追い求めているのか?
・太一はかたきうちをしようと思っていたのか?
・なぜ4場面のクエは興味を持てず,5場面のクエには興奮したのか?
・L71「興奮⇆冷静」対義になっている。太一は複雑な感情を持っていた?
・おとうを殺したクエとは,つまり「海に帰る=海を守る」と示しているのではないか?
・5場面に出たクエを,太一はどう見ていたのか?
・L63「不意に夢は実現するものだ」とあるが,太一にとっての夢とは何か?
・太一は本当にかたきうちという気持ちだったのか?
・太一にとっての「村一番の漁師」とは?
・おとうと太一の「村一番の漁師」の違いとは?
・「海の命」と瀬の主の関係は?
・太一にとっての「海の命」とは?
・太一にとっての「村一番の漁師」とは何か?
・おとうにとっての「村一番の漁師」とは何か?
・この人たち以外の他の人は,海を何だと思っているか?
・太一が思う「一人前の漁師」とは?
・太一の「夢」とは何のことなのか?
・太一と父の「村一番の漁師」の違いは?
・L79「本当の一人前の漁師にはなれない」と書いてあるが,L91の「村一番の漁師であり続けた」とある。瀬の主を殺していないのになぜ村一番の漁師と言っているのか?
・なぜ太一は5場面で「一人前の漁師」にはなれないと言っているのに,6場面では,村一番の漁師であり続けたのか?
・L36とL79とL91が矛盾している。このことが何を示しているのか?
・L36とL79とL91が矛盾していて意味がわからない。どういうことか?
・各登場人物の「海の命」の考え方は?
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最後までお読みいただきありがとうございます。
いよいよ明日は研究発表会1日目です。
先生方のご参加を心よりお待ちしております。
先生方のご参加を心よりお待ちしております。
国語科 溝上 剛道
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